教育は難しい。
前任校の福井工業大学。本当はCGやらメディアデザインやらを教える教員だったが、少しずつ映像制作を研究内容に取り込んでいった。大学に大学教員向けのAppleの動画講座の招待が来たので、ついつい東京にFinalCutの講座を受けにいった。その時、講師の方が、PanasonicのAG-HMC155を持参されていて、動画撮影についても基礎を習った。ホワイトバランスや三連リング、インターレースとプログレッシブの違いやフレームレート。24pで撮った映像の魔法のような効果について、などなど。
福井に戻ってすぐに大学にPanasonic AG-HMC155の購入申請。初めてそこそこ本格的なカメラを手にいれることとなった。ただ、大学というのは、購入をするにも理由が必要となる。その時は、学内プロジェクトの撮影をするためのカメラとしての購入だったので、共用機材としての登録。そうすると学内からカメラを貸して欲しいとの連絡が続々とくる。
みんなカメラに慣れている人なのか?いやほとんどそうではなくて、ホームビデオのように電源を入れたらすぐに撮影できると思っていた方々。高いカメラだからそれよりも綺麗に撮れるだろう、だから使いたい。でも、業務用カメラは簡単じゃない。ホワイトバランスもすぐに崩れるし、フォーカスやアイリスも細かく調整できるがゆえに、事故となる映像も撮れてしまう。それだったらよっぽど民生機やスマホの方が簡単に綺麗に撮れる。
そんなに簡単に業務用カメラで撮れるなら、撮影を学ぶ学校も必要ないし、プロも必要ない。
それから、実際、私自身もプロと仕事をすることも増えてきた。そうするとカメラの設定や撮り方はもっともっと細かく繊細なものとなる。
実際、映像作家の須藤カンジさんの撮影をやったときも、彼のもつイメージをどう実現するか、どのカメラがいいのか、どのレンズがいいのか、撮影中はそれで頭はフル稼働することとなる。
須藤カンジさんは、主にMVを中心として制作したディレクター。安室奈美恵さんの「SWEET 19 BLUES」や、AAA、RADWIMPSなどすごい人たちのMVを撮ってきた人だ。そんなすごい人に、福井工業大学デザイン学科に来てもらって授業を担当してもらったりしていた。
その須藤カンジさんに監督をつとめてもらって、ポルトガルで観光映像を撮ることになった。予算に限りもあったので、監督の須藤カンジさんと女優さん、そして木川と助手に学生1人に来てもらった。この状況なので、木川がドローン撮影、映像撮影を担うこととなった。事前にどのカメラを持っていくのか、現地でのワークフローではどんな形式で録画すべきなのか、データの受け渡しを円滑に現地で編集するにはどうしたらいいのか。音は?録音は?ポルトガルに行ってからは機材を確保することはできないので、事前に周到に考えなければならなかった。
撮影は事前準備、そして全体のワークフローの中で、それに最適な撮影の仕方を目指さなければならない。もちろん、手に入る機材の限度はあるし、できる範囲はある。少しずつ経験が増えていくと、やり方も見えてくる。大学教員としても教える技術が増えてきた。でも、それを教育に活かすのは簡単なことではない。
学生の現在の傾向。
おそらくiPhoneやスマホが普及して、動画撮影が簡単になったからか、インタビュー撮影をしたいので、16時撮影スタートなので16時にカメラを貸りにいきます、という学生たちが多い。撮影準備という概念がない。撮影時間は準備も含めて90分で全部やるという。で、もちろん借りようとしているカメラを扱った経験はない。
そこで質問をする。
「どのカメラをつかいたいの?」
「どんなふうに撮りたいの?」
「編集はどれぐらいのサイズでやるの?」
それに対して答えはない。たぶん他の人(学生)がわかると思うので彼と相談してやります。そしてカメラの使い方も、三脚の使い方も聞かずに借りていく。もちろん、「自分たちはまだできないので、撮影を初めは先生にやってもらえませんか?それをみて勉強します」というような学生はほぼいない。
今日もそういう撮影があった。使い方も、撮り方も聞かない学生に業務用カメラを(こっそりとフルオートモードにして事故が少ないように設定をして)渡す。撮影が終わってカメラを返しにくる。次は編集をするので、向こうの部屋のパソコンをかしてください、と言ってくる。
「どの編集ソフトをつかうの?」
「なんか編集ソフトが入ってるんですよね?それを使います」
Premiereの入っているコンピュータを、Premiereのソフトを使ったこともない学生が、どこにストレージするかも考えることなく、言ってくる。
「データはどこにおくの?どこに保存するの?」
「え?編集は他の学生がやるので、彼に聞きます」
と、SDカードが中に入ったままのカメラを、バックアップを取ることもなく、机の上に置いてでていった。部屋から出るやいなや学生たちは廊下で笑いながら歩いていった。きっと「あの先生、ややこしいことばかり言うなぁ」とでも盛り上がっているのだろう。
机の上には、彼らが「先生、撮影をしたんですが、うまくいかなかったです。ちょっと素材を見てもらえないでしょうか?編集をするのにこの素材で大丈夫でしょうか?」と聞いてきた時のために用意していたお菓子とカメラと三脚だけが残っていた。自分がプロから学んだ時はそうだったから。ゆっくりとプロジェクトを進めるに必要な段取りのことや、心づもりのことを語り合えるように。
まぁ、僕から学びたいことはないんだろうな。そして、僕には教えることはないんだろう。今の教育は難しい。


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