World’s Tourism Film Awards Talks

11月25日。滞在2日目は、CIFFTのディレクター集会にきちんと参加してきました。今回は全員が揃ったわけではありませんでしたが、各国の映像祭からディレクターや責任者が集まり、これからの映像祭ネットワークのあり方について議論を交わしました。建設的であり、今後の未来を感じさせる素晴らしいミーティングでした。

そして、11月26日。昨晩はWorld Film Festivalのシンポジウムが行われました。改めて感じたのは、観光映像の面白さです。登壇者の一人が、「観光とは『エネルギー』であり、『コミュニケーション』であり、そして『幸福』である。そんな素晴らしい産業に関われることが嬉しい」と語っていたのが印象的でした。この言葉には、観光映像の持つポジティブな面が凝縮されていると感じました。

さらに、今回は特に今年のランキングに基づく年間賞が与えられる映像祭でもありました。そこに集う映像作家たちは、それぞれの国のスターといえる存在です。他の映像祭ではただ一緒に飲んで楽しみ、仲良くなるだけだった彼らが、実際に自分の作品について語る場面に立ち会える。その機会は、本当に意味のある貴重な時間でした。

そんなわけで、備忘録としても、取ったメモをまとめておきます。

The Power of Video in Promoting Tourism Destinations

45分間のいくつかのセッションから構成されるTalks(シンポジウム)が設定されていましたが、その最初のセッションがこちら。CIFFTディレクターのアレクサンダー・カンメルがモデレーターをつとめました。

アレクサンダーと他の4名、合計5人で行われたセッションでした。初めは少し油断して聞いていたのですが、途中からは前のめりになって話を聞くようになりました。一番右に座っていたのは、スウェーデンの観光機関「VISIT SWEDEN」のCOOであるNils Perssonさんでした。「え!あの映像の仕掛け人?」と気づいた瞬間、このTalksの意義と重要性がようやく自分の中ではっきりと分かりました。

その映像は、日本国際観光映像祭やTourism Destination Countriesでも受賞した作品で、かなり攻めた内容の作品でした。

この作品自体は、やはりグローバルマーケットを意識して制作されたもので、限られた予算の中でいかに世界に届けるかという戦略の一環として作られたそうです。スウェーデンにはスウェーデンらしい自然があり、それ自体は観光地として十分に受け入れられていますが、その独自性を明確に示すのは容易ではありません。そのため、このような作品になったとのことです。特に重視しているターゲット国はドイツ、フランス、オランダ、そして中国だそうです。確かに公式YouTubeでは中国語以外にも各言語の字幕が用意されており、細やかな配慮が感じられます。また、実際にスイスの人々にも好意的に受け入れられているとのことで、スイスとスウェーデンが混同されることが向こうでもよくあるというエピソードも興味深かったです。

その隣に座っていたのは、南アフリカの「Tourism Business Council of South Africa」のCEO、Tshifhiwa Tshivhengwaさん。この方は南アフリカの観光戦略、特にCovid後の取り組みについて話されました。南アフリカという言葉が、大陸全体を指すのではなく、ひとつの国として認識されることの重要性を強調されていました。観光客の主な対象国はヨーロッパ、UK、そしてアメリカ。そしてここでも出てきたのが中国です。今やどこでも中国のプレゼンスが存在感を増しているのだと感じます。さらに注目すべきは、すでに確立されたマーケットに固執せず、新たなマーケットを探し求めることが南アフリカの戦略の中心にある点でした。このような取り組みは、DMO(Destination Marketing Organization)では難しいため、自身のような柔軟な組織が積極的に動く必要があると述べていました。

次に、アレクサンダーの隣に座っていたのは、Wroclaw Tourism Organizationのプレジデント、Alfred Wagnerさん。この方もまた非常に優れた映像プロデューサーで、彼の作品はまるで映画のトレーラーのような仕上がりでした。そのクオリティには圧倒されるばかりです。

次のセッションでは、この映像の監督であるMichalが登壇し、作品の内容や背景について詳しく語られますが、プロデューサーの話で特に興味深かったのは、この予告編のような映像を実際の映画館で他の映画トレーラーに混ぜて上映したという点です。その結果、これが本物の映画だと信じ込んでしまった観客もいたのではないかと思います。それほど完成度の高い作品だったのです。

そして最後に登壇したのは、Fastgro Investment HoldingsのCEOであるKarabo Songoさん(写真の左端に写っている方)です。彼はマーケティングの専門家で、恐らく南アフリカからの参加者ではないかと思われます。彼の講演内容は非常にプロフェッショナルで、グローバルマーケットを対象としたプロモーションにおいてセレブリティの起用がいかに重要か、そしてその際の契約に関する戦略が主なテーマでした。

特に印象的だったのは、契約の際に「どれだけ続けるか」ではなく、「期待した効果が得られなかった場合に、どのように終了できるか」が重要であると述べていた点です。この発言は、実践的かつ柔軟なマーケティングの姿勢を示しており、非常に参考になる内容でした。

Creating Unforgettable Experiences Through Video

最初のセッションが終了し、コーヒー休憩を挟んで次のセッションが始まりました。ここからモデレーターはSergey Stanovkinさんに交代します。SergeyさんはCIFFTのアンバサダーに就任が決定しており、今後もJWTFFと様々な形で良い関係を築いていくことが期待される方です。彼は長年BBCに勤めており、特に中央アジアに精通していることでも知られています。

Sergeyさんはテレビ局出身ということもあり、各クリエイターに対してかなり突っ込んだ質問を投げかけていました。その質問の仕方が非常に興味深く、見ていて面白かったです。たとえば、「映像を始めたきっかけ」や、「映像のクリエイティブとマーケティングの狭間」について掘り下げて聞いていました。

最初に彼が質問したのは、フランスのフィルムメーカーであるZekeFilmのRoxane PerrotさんとUgo Isoardさんでした。

フランスの作家らしく、Roxane PerrotさんとUgo Isoardさんは「映像を作ることは詩を紡ぐことに似ている」というような話をされました。それに対してSergeyさんは、「観光経験とは何か、または実務との関係はどのようなものか」といった核心的な質問を投げかけていきます。

彼らは実際にドキュメンタリーフィルムも数多く制作しており、「映像を通じて、人々に経験や夢を与えることができる。そして観光映像は、その街の重要なエッセンスを伝えるものである」という考えを語られていました。

続いてSergeyさんが切り込んだのは、先ほど紹介したポーランドの映像監督、Michal Zielinskiさんでした。

先ほどの映画のトレイラーのような観光映像を制作した目的は、やはりグローバルマーケットを意識したものだそうです。特にMichalの世代はアメリカ映画の影響を強く受けており、アメリカンポップカルチャーを表現するアドベンチャームービーを意識して映像を作ったとのことでした。まずはストーリーを作り、そのロケ地としてWroclawの街にある重要な観光資源を活用したそうです。

「映像を作る際のターゲット設定はどのように行うのか」という質問に対しては、「それはクライアントが提供するものであり、自分たちの役割はその要求を実現する映像を作ることだ」と述べられました。また、印象的だったのは、Michalが語った「映像とは様々な形があり、若手は自分が好きなものを作るけれど、最も大事なことは Something important を伝えることだ」という言葉です。大切な何かを伝える。その言葉の重みが胸に響きました。

次に登壇したのは、クロアチアの映像作家であるDanijel Bolicさん。彼とは先月ポルトガルで開催されたART&TURでもお会いしましたし、日本国際観光映像祭でも受賞しているので、すでによく知っている方です。

彼の作品は Operation 4 というタイトルです。Sergeyとの間では「エンゲージメント」についての議論も交わされました。エンゲージメントとは何か。それは「Emotion(感情)」を喚起し、視聴者を映像の世界に引き込むことではないか、という結論に至りました。

彼の作品は次のような内容です。

前のセッションで、世界的なセレブを起用した映像について議論があったこともあり、Danijelさんは自身の考えを強調されました。「私の映像ではローカルの人々に出演してもらうんだ」とのことです。彼の制作プロセスは、まずストーリーを作り、そこに必要な情報を織り込んでいくというスタイルだそうです。

セッション終了後の懇親会で、改めてその点について尋ねてみました。「なぜローカルの人を使うのですか?」という問いに対し、彼の答えはシンプルで印象的でした。「That makes film authentic(それが映像を本物にする)」と。その言葉に、本質に迫る力強さを感じました。観光映像にとって大切なもの、それは「本物」であること。その意義を深く理解した瞬間でした。

その後のセッション

そのあとの二つのセッションは、スポンサーからの提供のものでした。
・Travelling in the right direction by CARMA
・The future of sustainable tourism by Normmal

CARMAはドバイに本拠地を持つ、世界的なマーケティングの会社で、世界各国に支部があります。特に印象的だったのは、やはり実際の効果をどのように出すのか、をしっかりと考えている、というものでした。印象的なスライドが以下のようなものでした。

Numbers、数字にNarrative、物語が加わって初めてインサイトになる、ということ。彼も何度もEmotionという言葉をつかっておられたことが印象的でした。

最後のSustainableのセッションでは、バレンシアの観光局の方の登壇もありました。

Head of Sustainable Tourism at visit ValenciaのJaume Mataさんは、セッション前に廊下で会った時に、昨日つくった木川のバレンシアVlogを褒めてくださいました。そして、セッションで言われたことも、バレンシアに今こそ、いろいろな人に来てほしい、ということでした。

まとめ

当たり前のことですが、映像を制作するには多大な労力がかかります。登壇者の中には、「プレプロダクション(pre-production)の段階が最も重要だ」とおっしゃる方もいました。観光客の動向や映像で実現すべきゴールを、関係者同士で何度も議論を重ね、その結果として作り上げられるのが観光映像です。そうした過程を経てきた監督たちは、自然と語るべきことを多く持ち、その中には実に興味深い知見が詰まっています。

今回のシンポジウムに参加し、非常に多くのことを学びました。そして少し余談ですが、隣に座っていた男性のノートが見事なものでした。登壇者の似顔絵を描きながら、内容を美しくグラフィカルにまとめていたのです。一体何者だったのでしょうか。明らかにただ者ではありません。こういったクリエイティブなノート術、非常に重要だと感じました。そして、ふと気づいたのですが、自分のゼミ生にはこうしたスキルの重要性をあまり強調してこなかったな、と反省しました。これからは教育にも活かしていきたいと思います。

というわけで、非常に有意義な会となりました。観光映像は、まだまだ語り尽くせない可能性を秘めた分野です。日本国際観光映像祭の真庭大会でも、このような映像作りの現場から生まれる話を聞ける場をぜひ作りたい、いや、作ります。

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