2026年4月19日の朝日新聞の記事で「地元大への進学率 じわり増」という記事が掲載されていました。昔は大学進学といえば、東京や近隣の大都市への進学。さらにはそのままその土地の企業への就職して、結局は故郷に帰ることはない。もっと遡れば、進学というよりも就業の流れとしては、50年代、60年代の「金の卵」の時代の集団就職もそうでしょう。都会だけが若者を受け入れ、そして地方は都会へと送り続ける側。また、東京は特殊出生率も国内で最も低いので、結局は、地方では比較的多くの子どもが生まれ、それが東京へと送り出されて、そこでは独身生活を続ける傾向が強くなる。そして日本の人口はどんどんと減っていく。こういうこともあるので、東京は人口の“ブラックホール”と呼ばれることもあります。
ただ、少しそういう時代から変化しつつあることを和歌山の大学で教えていると体感します。今年は、一年生の初年度教育にも関わっているんですが、学生たちのほとんどが東京への就職へのあこがれを全くもってなかったのです。これは驚きでした。まぁ、一年生なので年とともにその意識は変わっていくとは思いますが、地元に戻りたい、そのまま和歌山で働きたい、そういう学生が今年は多い。もちろん、これは観光学部、という特性もあるかもです。

さて、記事を見るとそこには「自県大学進学率、上位と下位の推移」というタイトルで図が掲載されています。2002年の上位5県と、下位5県は以下のような感じ。
2002年度の自県大学進学率
上位5県
- 北海道 71.42%
- 愛知 69.39%
- 福岡 63.12%
- 東京 59.03%
- 沖縄 56.83%
下位5県
- 滋賀 14.24%
- 島根 14.20%
- 長野 13.03%
- 佐賀 13.02%
- 和歌山 7.32%
私自身、滋賀県は故郷ではあるので(公式には故郷は京都市)、なんとなく下位である状況はわかります。隣に京都があり、私の実家の最寄りの石山駅からは京都駅まで13分。十分に通える距離です。ただ、こういう状況があったのでしょう。私の記憶頼りですが、2002年当時の滋賀県はかなり大学誘致に力を入れていて、立命館の琵琶湖キャンパスも拡大、龍谷大学や長浜バイオ大学やびわこ成蹊スポーツ大学とか成安造形大学もこの政策の流れで移転してきたり、設立されてきたのではないかと思います。
ただ、異次元なのは、和歌山県の7.32%。おそらく、この数字は和歌山県の人たちに大きなインパクトを与えたんでしょう。たとえば、和歌山大学観光学部は2008年なのですが、設立までの間に、中心市街地での設立が模索されたりと、このような状況の中での和歌山県の県内進学率をあげるための期待があったことが想像できます。でも、実は和歌山大学は和歌山からの進学よりも、大阪からの進学が多いのは事実。特に泉州地域から見れば通いやすい大学だったりします。そして、やはり大都市の方が進学のための学力は高い。塾があったり、競争がはげしかったり、とそういう事情もあるのでしょう。ただ、和歌山市はそれからさまざまな大学を誘致しています。それによって、2024年度の調査では数字が大きく変わります。
2024年度の自県大学進学率
以下が2024年度の自県大学進学率です。和歌山県は19.3%となんと10%以上も自県大学進学率が上昇し、下位5県からは脱出することができています。
上位5県
- 愛知 71.42%
- 東京 68.82%
- 福岡 65.91%
- 北海道 65.27%
- 大阪 60.09%
下位5県
- 島根 17.83%
- 香川 17.73%
- 佐賀 17.51%
- 奈良 15.23%
- 鳥取 15.12%
ちなみに滋賀県も、22.2%となり、下位5県から脱出です。ただ、2022年の下位5県。いずれも2002年であれば下位にならない数字。朝日新聞の見出し通り、地元大への進学率が全体的にあがっているのでしょう。そこで取り残された大学、特に関西圏だと、奈良県を見てみたいと思います。
奈良県の状況
今回の朝日新聞の記事は、文部科学省のデータ公開を受けたもの。オリジナルデータは以下から見ることができます。
ここから奈良県のデータを見てみます。

奈良県は住民の人たちが自分たちで教育県と呼ぶように、大学進学率が62.6%と非常に高いのが特徴です。東大寺学園や西大和学園といった東大、京大へ多く送り出す進学校があるのも特徴でしょう。進学先が大阪、京都と近隣に通いやすい大学があるので、自県進学率が低くなっているのでしょう。一方で、奈良県の大学への進学者は大阪からが30%で一番ということで、多く送り出し、多く受け入れているという感じです。
この数字だけを見てもわからないので、滋賀県と比較してみます。
滋賀県の状況

18歳人口だけでいうと、奈良よりも人口規模が多いことがわかります。確かに、大学進学先で京都という大学がいっぱいある場所が近隣にあるので、43%と多く送り出している。一方で、滋賀県出身の人も滋賀県の大学に行く例も多い。あとは定員規模でいうと、立命館大学と龍谷大学、これはでかい。逆にこれだけの定員規模があるのに、22.2%の自県進学率となっているのがすごいことです。
さて、それでは、和歌山大学のある、和歌山県はどうでしょうか?
和歌山県の状況

やはり、大学が少ない県と言われ続けてきて、入学定員1,985は少ない数字です。和歌山大学が890人定員ということから見ると、この数字は奈良、滋賀と比較するととても少ない。2002年度から2024年度に向けて、自県進学率が急上昇した、その理由に大学誘致がありましたが、それらの定員は、東京医療保健大学の90人、宝塚医療大学の150人とそこまでの量ではないので、これはひょっとしたら2002年度から2024年度に向けての18歳人口の急激な低下のために自県進学率が高まった部分も大きいのではないでしょうか。
ただ、和歌山大学への進学者は大阪からが5割程度なので、ここで示されている他の大学への和歌山からの進学率は結構高いのかもしれないです。和歌山への新規誘致大学は、医療系がメインであり、これは確かに地域の医療を支える人材として出口もあるのでとてもわかりやすいですが、和歌山らしい、水産業や林業、農業、土木といった人材を育てる学科が少ないのが気になります。昔から、公務員になるならば、土木工学科が一番有利ということはあるので、そのあたりの充実が必要なのではないでしょうか。
まぁ、本学のライバルになるから言いたくないですが、他の県と比較すると、やはり、和歌山県立大学、ってのが必要かもです。地域産業ともっと直結した学びが不可欠に思います。できれば紀南地区に。ただ、今から作るのはちょっと遅すぎるかもです。もっと余裕がある時代に作っておくべきでした。
まとめ
朝日新聞の記事の論調のように、確かに自県進学率は各県で上昇傾向のようです。そして、なぜ進学率を地方はあげてきたのか、というのも、大学卒業後に、その場所に定着してくれる可能性が高いから、ということもあるようです。一方で、自県進学率、全国最下位の鳥取県は、朝日新聞の記事では就職先がないから、ということが大きいようですね。
| 大学入学定員 | 自県進学率 | 大学進学率 | 専門学校進学率 | 18歳人口 | |
| 奈良県 | 4,438 | 15.0% | 62.6% | 10.6% | 12,367 |
| 滋賀県 | 7,967 | 22.2% | 53.0% | 13.7% | 13,783 |
| 和歌山県 | 1,985 | 19.3% | 52.0% | 14.6% | 8,128 |
数字を並べてみると、奈良県の大学進学率は非常に高い。一方で滋賀県、和歌山県は実学中心の専門学校の進学率は奈良より高いので、そのまま地元に住みつつ、地元で定着する人が多いのかもしれないです。
ずっと昔は、末は博士か大臣か、といった立身出世のための大学、という時代もあったのでしょうけど、今は地域で大切な人材となって、地域で幸せに生きていくことが、日本全体を見ても大切なような気がします。その意味では、地域の要望に応じた、大学の設計。これがもっと必要になってくるのではないでしょうか?


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